ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役会長 瀬戸 薫 | 経営課題を専門家に相談できるサイト イチゾウ | ページ 2

わが経営論

ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役会長 瀬戸 薫

※下記は経営者通信24号(2013年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

― 新商品を開発するにあたり、どんな方法で市場ニーズを掘りあてているのですか。

ニーズというのは、なかなか表面化しないものです。逆に、「もっと早く荷物を受け取れないのか」とか「深夜に届かないのは不便」など、クレームはよく出てきます。 クレームとは、じつはお客さまが「解決してほしい」と願っている困りごとの裏返しなんですね。ですから、当社の新商品開発の基本スタンスは、クレームを真摯に聞き、それをなくすことにおいています。

― どのようにしてクレーム情報を収集しているのですか。

一般的に、クレーム情報は経営陣に届きにくい。そのため、さまざまな方法で積極的な情報収集に努めています。「朝ミーティング」と称している、毎朝7時30分から本社役員室で開く会議はそのひとつです。ときにはお客さまからのクレームをヒントに、現場と経営陣が一緒になってより便利なサービスを検討します。新商品や新サービスは、そこで生まれることも多いですね。また、半年に一度は全国の支社に出向いて、各拠点、各現場の担当者の提案を直接受けます。そのなかにはお客さまのクレームやご要望がきっかけとなった新サービスの提案も数多くあります。1988年に開始した「クール宅急便」もクレームから生まれた商品でした。

― 瀬戸さんは「クール宅急便」の開発リーダーでしたね。開発のきっかけを教えてください。

親御さんが「故郷の海で釣った魚を食べさせたい」と、宅急便を使って遠く離れた子どもに氷づけにした鮮魚を送ることなどがよくありました。翌日配送の宅急便なら、真夏でも発泡スチロールの箱に入れることで、氷温状態を保ったまま魚を送れるので重宝されていたんですね。しかし、荷物を受け取るエンドユーザーが不在だった場合、再配送はその翌日になることもありました。一晩たつと詰め込んだ氷は溶け、傷んでしまう。当然、お客さまからはクレームが入ります。

― 配送しても不在だったというのでは、仕方ないですよね。

「キチンと届けたのに、留守にしていたほうが悪い」とか「われわれの仕事は配送すること。温度管理ではない」と、運送業の論理を振りかざすのは簡単です。しかし、真摯にクレームを聞けば、お客さまは「真夏でも確実においしい状態で魚を送りたいのに、それができない」「困った」と考えていることがわかります。だったら、温度管理ができる物流システム、「クール宅急便」をつくればいいじゃないか。そう号令したのは小倉さんでした。

― 開始までの経緯を教えてください。

最初は1987年、宅急便に「温度帯別」の配送サービスを付加。約1年の期間をかけて1988年に全国展開をスタートさせました。どれだけニーズがあるのかわかりませんでしたが、いざ開始してみると、お客さまからたくさんの支持を集めることに成功したんです。クール宅急便が普及する以前は、新鮮なお刺身や魚料理は一部の高級店のメニューでしたが、各地の生鮮品が低コストでデリバリーできるようになりました。このとき、孫子の「戦わずして勝つ」とはこのことだ、と学びましたね。

― どんなことを学んだのですか。

「クール宅急便」をつくるためには、専用トラックを開発したり、全国の営業所に冷凍室を設置するなど、多額の初期投資が必要。時間もかかります。逆にそれがネックとなって、競合他社はなかなか追随できず、長い間、当社が市場を独占しました。他社が戦えない市場を創れば、これはもう独壇場。価格競争に巻き込まれることはありませんし、絶対に勝つわけです。これが「戦わずして勝つ」ということです。

そのためには、すぐにはマネされない独自の商品、サービスを開発する必要があります。それを支えているのが、エンドユーザー志向を徹底し、クレーム情報を組織的に収集、現場と経営陣が一体になって新しい商品やサービスへと昇華させる仕組みなんです。

― 最後に、経営者にメッセージをお願いします。

クレームは、新しいビジネスのヒントです。決して逃げてはいけません。世のため、人のために仕事をしている限り、絶対に利益は後からついてきます。当社はこれからも困りごとを解決するイノベーションに取り組み、お客さまの利益になる商品、サービスを提供し続けていくつもりです。

瀬戸 薫プロフィール
1947年、神奈川県生まれ。1970年に中央大学法学部を卒業後、大和運輸株式会社(現:ヤマトホールディングス株式会社)に入社。宅急便開発プロジェクトチーム、「クール宅急便」開発担当、中国支社長などを経て、1999年に取締役に就任。常務執行役員を経て、2005年に純粋持株会社移行後のヤマト運輸株式会社(現:ヤマトホールディングス株式会社)の代表取締役会長に就任。2006年にヤマトホールディングス株式会社の代表取締役社長兼社長執行役員に就任。2011年から現職。

企業情報

創立1919年11月
設立2005年11月
資本金1,272億3,400万円
売上高1兆2,608億3,200万円(2012年3月期、連結)
従業員数17万7,301人(同上)
事業内容デリバリー事業、BIZ-ロジ事業、ホームコンビニエンス事業、e-ビジネス事業、フィナンシャル事業、トラックメンテナンス事業など
URL http://www.yamato-hd.co.jp/

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